2026年9月18日、区分マンションの決済が終わりました。2022年の9月に買った物件なので、保有はちょうど4年です。
ただ、この記事で書きたいのは売却益の話ではありません。売却が決まるまでの間に起きた、たった一通の連絡の話です。
正直に言うと、あの連絡を「まあ、そういうものか」と受け入れていたら、私は20万円を自分の財布から出していました。そうならなかったのは、私が賢かったからではありません。4年前の書類を、捨てずに取ってあっただけです。
本記事は、第1話・独身42歳での購入、第2話・運用のリアル数字、第3話・売却決断に続くシリーズの第4話です。売却そのものより、その裏で起きていたことを書き残しておきます。
3月末の退去のあと、届いた一通の連絡
第3話に書いたとおり、退去の連絡が来たのは2026年3月11日の夜でした。家族で外食している最中のことです。15年住んでくれた入居者が、3月末で出ていく。そこから1週間で売却を決めました。
その退去手続きが進んでいるさなか、管理会社から連絡が来ました。
お預かりしている敷金から原状回復の費用を差し引いて、残りを退去される方にお返ししたいので、お手続きをお願いします。
読んだ瞬間、「え?」と思いました。
私、この物件を買ったときに敷金を受け取ったんだったかな。
4年前のことです。しかも、その4年間は入居者がずっと住み続けていたので、敷金のことなんて一度も考えたことがありませんでした。記憶はまったくありません。
ここで、たぶん多くの人は二択に落ちます。
- A:「覚えてないけど、管理会社が言うならそうなんだろう」と払う
- B:「そんなの知らない」と感情的に突っぱねる
Aを選べば、自分の記憶の曖昧さがそのまま20万円の損になります。Bを選べば、相手との関係が壊れるだけで、結局は事実が分からないままです。
私が選んだのは、そのどちらでもありませんでした。
覚えていないなら、書類に聞けばいい
やったことは単純で、ファイルを引っ張り出しただけです。
まず、管理を委託したときの契約書を確認しました。そこには、敷金について「管理会社が預かる」という趣旨の記載がありました。
ここまでは、私の手元の書類の話です。ところが、相手方が保管している同じ契約書を確認してもらうと、その箇所が訂正され、訂正印が押されていました。
私はその訂正について、何も聞いていません。
同じ日に、同じ内容で交わしたはずの契約書が、自分の手元と相手の手元で違っている。この時点で、気持ちのざわつきは一段上がりました。

覚えてないのに、よく調べようと思いましたね。私だったら「そういうものか」で払ってた気がします

偉そうなことは言えないんですよ。私も記憶はゼロでした。ただ「覚えてない」と「無かった」は別の話なので、書類を見るまでは判断を保留しようと思っただけです
決め手になったのは、購入時の精算書だった
次に出したのが、購入したときの精算書です。
不動産を買うと、決済のときに「何にいくら払って、何をいくら受け取ったか」を1枚にまとめた計算書をもらいます。仲介した会社が作るものです。私はこれを、購入時の書類一式と一緒にそのまま保管していました。
4年ぶりに開いて、上から下まで見ました。
敷金を引き継いだという記載が、どこにもありませんでした。
これで、記憶ではなく書類の上で話ができるようになりました。私は契約書と精算書を全部スマホで撮って、担当の方に送りました。文句を書き添えることはしていません。「この書類にはこう書いてあります。確認をお願いします」とだけ伝えました。
4年前の見落としと、もういない担当者
しばらく経って、回答がありました。
要約すると、こういうことでした。
- 購入当時の担当者が、敷金の引き継ぎを失念していた
- 前の所有者から、敷金が引き渡されていなかった
- その担当者は、すでに退職している
3つ目を読んだとき、背中が少し冷たくなりました。
もし私が書類を捨てていたら、事実を知っている人はもうどこにもいなかったわけです。「担当者に聞けば分かる」は、4年も経つと通用しません。会社は残っても、人は入れ替わる。最後まで残っていたのは、私の手元の紙だけでした。
やっかいなのは「受け取っていなくても、返す義務はある」こと
ここが、この話のいちばん理不尽なところです。
入居者がいる状態の物件を買うと、前の所有者と入居者が結んでいた契約を、そのまま引き継ぎます。そして敷金を返す義務も、新しい所有者に移ります。
全日本不動産協会の解説には、はっきりこう書かれています。前の所有者から実際に敷金を引き継いだかどうかに関係なく、新しい所有者が敷金の返還義務を負う、と。
つまり、原資を一円も受け取っていなくても、退去する人には返さなければいけない。私は4年間、そのことを知らないまま、20万円の借りを背負って運用していたことになります。
入居者の方には何の落ち度もありません。悪いのは、引き継ぎが抜けたことです。
「振り込みます」で終わらせなかった、4つの理由
窓口になってくれたのは、若い女性の担当の方でした。お詫びの言葉はありました。そのうえで、こう言われました。
では、敷金の20万円をお振り込みします。
しかも、その振込手数料はこちら持ちで、という話でした。
悪気があったとは思いません。マニュアルどおりに処理しようとしただけだと思います。ただ、私はそれを受け取りませんでした。
責任者の方に代わってほしいと伝え、後日、事業本部長から電話をいただきました。そこで話したのが次の4点です。
- この会社には、購入のときも、その後の管理も任せてきた。手数料もずっと払ってきた取引先だということ
- 契約書の同じ箇所が、自分の控えと相手の控えで違っている。これは不信につながるということ
- 20万円を振り込んで終わり、という形になっていること。しかもその手数料までこちらに求めてきたこと
- その20万円が、4年間まったく私の手元になかったという事実。もし手元にあれば、私はそれを運用に回していたということ
言い方には気をつけました。声を荒らげてはいません。怒りをぶつけたいのではなく、事実を並べて、しかるべき対応をお願いしたかったからです。

正直、振り込んでくれるなら私はそこで受け取って終わりにしちゃいそうです。なんで止まれたんですか

高配当株を6年やってきたのが効いた気がします。お金には時間の値段がついてるって、体に入っちゃってるんですよね
20万円は、4年後には20万円ではない
4つ目が、この記事でいちばん書きたかったところです。
「20万円をお返しします」と言われたとき、額面だけ見れば、それは正しい処理です。預かるべきだったお金が20万円なら、返すのも20万円。誰も損をしていないように見えます。
でも、そのお金は4年間、私の手元にありませんでした。
私は高配当株をずっと続けてきた人間です。手元に20万円があれば、それは間違いなく株の買い付けに回っていました。仮に年5%で回っていたとすると、4年後にはおよそ24万3,000円になっている計算です。
| 経過 | 金額(年5%と仮定した場合) |
|---|---|
| 預かるべきだった時点 | 200,000円 |
| 1年後 | 210,000円 |
| 2年後 | 220,500円 |
| 3年後 | 231,525円 |
| 4年後 | 243,101円 |
差は4万円ほど。金額としては大きくありません。
ただ、私が伝えたかったのは金額ではなく、「額面を戻せばゼロに戻る」という前提そのものが違うということでした。時間は戻ってこないので、失われた分はどうやっても埋まりません。
だからこれは、請求としてではなく、事実の確認として伝えました。「いくら上乗せしてください」とは一言も言っていません。そこは相手に委ねました。
この感覚は、株を長く持っていると自然に身につくものだと思います。配当を再投資に回すか、使ってしまうかで、10年後の受取額がまるで変わる。そういう計算を毎年やっていると、「いま手元にない4年間」の重さが、なんとなく体感として分かるようになります。高配当株の始め方をまとめた記事にも書きましたが、複利は金額よりも「時間」で効いてくるので。
★ 「時間の値段」を味方につけるなら ★
配当を受け取る器は
「楽天証券」から作りました
手元にないお金は働きません。逆に言えば、手元にあるお金は時間が働かせてくれます。私が10年以上使っている楽天証券は、NISA成長投資枠+株式数比例配分方式で配当が事実上非課税になり、楽天ポイントとも連動します。
※ 投資判断はご自身の責任で行ってください
本部長の返答と、そこから動きはじめた売却
電話をいただいた事業本部長の対応は、誠実でした。
まず、きちんとしたお詫びがありました。そのうえで、2つの申し出をいただきました。
- 今回の売却にかかる仲介手数料を半額にする
- この物件が売れるよう、社内で力を入れて進める
正直に言えば、2つ目のほうがありがたい話でした。手数料の減額は一度きりですが、売れるかどうかは私の資産全体に関わることだったからです。
そして実際、そのあと担当者の方の動きが変わりました。それまでは、正直あまり熱を感じられなかったのですが、明らかに反応が早くなりました。
1,300万円から1,150万円まで ─ 実際の値動き
売却そのものは、順風満帆ではありませんでした。
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 5月 | 1,300万円で売出開始。引き合いはほとんどなし |
| ─ | 1,250万円に価格変更 |
| 7月 | ある不動産会社から購入の打診(おそらくリフォームして再販する目的) |
| ─ | 先方の希望は1,000万円。私は1,200万円で回答 → 社内の稟議が通らず決裂 |
| ─ | あらためて1,150万円で打診。私は1,175万円を提示 |
| ─ | 1,150万円が限界とのことで、ここで手を打つ |
| 9月18日 | 決済完了 |
5月スタートという時期の悪さもありましたが、いちばんの理由は築37年だと思います。立地は地方都市の主要駅から車で5分と悪くないのに、築年数が古いと買い手の住宅ローンが付きにくい。一度決裂したときは、正直「これは長引くな」と覚悟しました。
本体950万円で買って、諸費用や不動産取得税まで入れた取得総額はおよそ1,100万円。そこから4年持って1,150万円で売れたので、物件そのものとしては悪くない着地です。
最終的に、仲介手数料は約18万円になった
決済が終わって、最終的な手数料の額を見て驚きました。
1,150万円の売買にかかる仲介手数料は、法律で上限が決まっています。「売買価格の3%+6万円+消費税」なので、計算すると445,500円。
それが、約18万円でした。
| 法律上の上限額 | 445,500円 |
| 実際に支払った額 | 約180,000円 |
| 差額 | 約265,500円 |
「半額にする」と聞いていたので、222,750円くらいかと思っていました。実際はそこから、さらに4万円ほど下がっていたのです。
心当たりはありました。決済の日程が、先方の都合で8月から9月に1か月ずれたのです。こちらとしてはその1か月分、ローンの利息も管理費・修繕積立金も余計にかかります。なので「先方が負担してくれるならいいですよ」と答えていました。
ところが実際には、先方には請求せず、自社の仲介手数料から差し引いてくれていたのです。金額の辻褄が合います。
あとから聞いた話(ただし裏は取れていません)
売却が終わったあと、担当者の方から聞いた話があります。
買主である不動産会社から受け取る手数料についても、半額にしていた。会社としては、この売買がまとまるなら最悪、手数料がゼロでも構わないというくらいの姿勢で進めていた。その結果、買主側は手数料が浮いた分を物件価格に回すことができ、1,150万円まで上げることができた──という話でした。
ただ、これは担当者の方から聞いた話です。私がその裏を取ったわけではないので、どこまで信じていいかは分かりません。
それでも、決済の延期分まで自社で被っていたことを考えると、話は繋がっているように思えます。私が敷金の件で責任ある対応を求めたことと、無関係ではないのだろう、と。これはあくまで私の推測です。
ちなみに敷金の20万円は、無事に振り込まれました。振込手数料は、最終的に先方の負担になりました。
これは「ゴネ得」ではないと思っている
ここまで読んで、「強く言ったもの勝ちじゃないか」と感じた方がいるかもしれません。
私はそうは思っていません。理由は3つあります。
ひとつ目。私がやったのは、怒ることではなく、書類を出すことでした。感情で押していたら、たぶん「言った・言わない」の水掛け論になって終わっていました。精算書に記載がなかったという事実があったから、相手も調べて、非を認めることができたのだと思います。
ふたつ目。私は金額を要求していません。4年間手元になかったという事実は伝えましたが、いくら上乗せしろとは言っていない。何をするかは相手に委ねました。返ってきたのが手数料の減額と売却の後押しだったのは、相手の判断です。
みっつ目。相手の誠意は、きちんと受け取りました。本部長の対応にも、そのあと動いてくれた担当者にも、感謝しています。窓口の方の対応は確かに機械的でしたが、悪意があったとは思っていません。組織として非を認めて、できることをしてくれた。それが全部です。

不動産を持ってない自分には関係ない話かと思ってましたけど、途中から自分ごとになってきました

そこなんですよね。保険も、税金も、サブスクも、子どもの集金も、「記憶が曖昧なまま相手の言い分を飲む」場面って、生活のあちこちにあります
私がこの4年で学んだ、たった2つのこと
- お金が動いた取引の書類は、取引が終わっても捨てない。特に「何にいくら払ったか」が1枚にまとまった精算書は、あとから効きます
- 「覚えていない」は、調べない理由にはならない。覚えていないことを認めたうえで、書類に聞けばいい。それは相手を疑うこととは違います
ちなみに我が家には、もう1件、今も赤字が続いている戸建てがあります。こちらは勝ち逃げどころではなく、現在進行形の失敗談です。うまくいった話だけを書くのはフェアではないので、そちらも合わせて読んでもらえたらと思います。
最後まで、説明されなかったことがひとつある
全部まとまって、気持ちよく終わった話のように書いてきました。実際、結果には満足しています。
ただ、ひとつだけ、最後まで説明されなかったことがあります。
相手方の契約書に入っていた、あの訂正です。
私の手元の契約書には訂正はありません。相手の控えにだけ、訂正印が押されている。いつ、誰が、どういう経緯でそれを入れたのか。本部長との話のなかでも、結局そこに触れられることはありませんでした。
私からも、それ以上は追及しませんでした。全体として誠実に対応してもらったし、物件も無事に手を離れたからです。
でも、いまも分かっていません。
もし私が書類を捨てていたら。もし精算書をファイルごと処分していたら。あの訂正された契約書が、唯一残った「正しい記録」になっていたはずです。
4年間で、担当者はいなくなりました。私の記憶も消えていました。最後まで残って、私を助けてくれたのは、引き出しに突っ込んであった一束の紙だけでした。
もし、いま家のどこかに「たぶんもう要らないだろう」と思っている契約書の束があるなら。あと数年だけ、そのままにしておいてください。
これで、区分マンションのシリーズは本当に完結です。第1話から読んでくださった方、ありがとうございました。

